Interpretation is a war. Translation is a job.

 『サリンジャー戦記』、自らの翻訳に「戦」などという言葉を遣う物書きの言語感覚は、疑わしい。柴田元幸本郷三丁目駅で何度か見かけた。村上春樹は見たことがない当然。
 翻訳とは何より「仕事」(job)だ。そして、「戦」があるのは、名も知られぬ翻訳者の日々の労働(working)現場においてのみである。同様に、通訳の労働も「戦」だろう。すなわち、「戦」といいうる「労働」(work)は、つねに「時間との戦い」を含まなければならない。また一つの「作品」(work)と言いうるような翻訳は、そのような「時間との戦い」から生まれたものにしかない。
 言語に通じた武田泰淳が翻訳を嫌悪していたことを、思い出す。一語訳すのに一晩かかった、などという伝説は、「戦」とは無縁の空間だ。