糸谷哲郎と張栩

昨日の午前、NHK杯将棋トーナメントでの糸谷哲郎先生の凄まじい早指しでの勝利を見た。午後、駅前の書店で張栩先生の『勝利は10%から積み上げる』を買い、すぐに読み終えた。(興味深く分かりやすい本で、私が特に早読みした訳ではない)

勝利は10%から積み上げる

勝利は10%から積み上げる

勝利という目標を達成するためには、「時間」も味方につけなければなりません。
周りに流されることなく、自分の時間の使い方をするということです。
また、日本囲碁界には「持ち時間を残して負けるのは恥ずかしい」と考える風潮があります。負けるにしても、時間をぎりぎりまで使い、最善の努力をした上で負けろ、ということです。
しかし、中国や韓国の碁では、持ち時間三時間の碁なのに、両者とも一時間ずつしか使わずに終わっている碁を見かけることがあります。しかもこういうケースが結構多いのです。
日本でこんなことをしたら、たちどころに「二時間も残して負けて、何をやっているんだ。勝つ気があるのか」と非難されてしまいます。最善の努力をしていない、ということですね。
でも僕はこういうケースを見ても、違和感は覚えません。
なぜなら彼らは、時間の使い方を含めて勝負しているからです。

糸谷先生と対局した渡辺竜王はもちろん、将棋棋士となる人たちは、子どもの頃から常人ではありえない水準の早見え、早指しの能力を発揮してきた人たちだろうが、プロとして勝つために、時間を存分に使い考え抜くスタイルを徐々に獲得していく(もちろん渡辺竜王も羽生名人も、最終盤にある程度の時間を残す安定したペース配分の能力は抜群であろうにせよ)。上のような「非難」が師匠などからなされるというのは、将棋でもよく目にした話である。
しかし、もしかしたら糸谷先生はいつまでもあのスタイルを崩さずに上へ向かうのではないか、中韓の若手囲碁棋士たちと同じスタイルが、日本の若手将棋棋士たちにも定着するのではないか、という気がした、昨日であった。