七年

 『探求』を書き始めてから七年以上経っている。東洋には、七年で世界が一変するという説が昔からある。私が生きてきた戦後の歴史的情勢をふりかえっても、確かにそういう感じがする。その意味では、七年は、あるテクストがそれがもともと属していた文脈から切り離されるのに必要な最小限の長さである。それ以後、テクストは、それ自体の力以外によっては存続することができないといえる。しかし、その力が何であるかはわからないし、予測不可能である。
柄谷行人『探求I』「学術文庫版」へのあとがき)

 盧武鉉氏が大統領に当選した2002年から七年。2001年9月11日の事件後、アル カイーダの首領とされるウサーマ ビン=ラーディンへの報復として、ジョージ・W・ブッシュ指揮の下アフガニスタンへの空爆が続いていたのが2002年。2009年現在において、オバマ大統領率いるアメリカ合州国のアフガン空爆の標的は、専らタリバンという「組織」である。2003年に始まったイラク戦争においても、フセイン大統領という「個人」を捕まえるというテキサス西部劇的な分かり易さが一応あったのに較べ、現在のアフガン空爆にはそれすら無い。個人は必ず死ぬが、ずっと存続するかもしれないのが組織だ。「賢い」オバマは泥沼を自ら選んだ。

探究(1) (講談社学術文庫)

探究(1) (講談社学術文庫)