小田光雄よエゴイストになれ

 小田光雄の印象は、佐野眞一松沢呉一の中間。小田にはその両者とちがいアカデミズム志向もあるのは、もしかしたら世代的なものかもしれない(佐野:1947年生、小田:1951年生、松沢:1957年生)。
 エゴイストになれ、とは、松沢呉一のようになれ、ということ。松沢呉一のメルマガを購読しているが、そこで松沢は、つねに「自分の本を売りたい」という欲望を隠さない。そしてこのエゴイズムの発露は健全だ。小田光雄も自分が執筆したり出版したりしている本を「売りたい」ということをもっとはっきり出すべきだと思う(松沢呉一も単行本や雑誌連載にまで「売りたい」とは書かないが、そもそもそれらは出版に関する本や記事ではない。小田光雄も、せめてweb連載では、「売りたい」でいいではないか)。兎も角、「出版文化」や「人文」や「社会科学」などのお題目は、もう止めた方がいい。書物の文化的価値を決めるのは、読者(消費者)でしかないのだから。著作者がいくら「労作」(トラヴァイユ)に従事したとしても、それ自体は書物の文化的価値とは、無関係。が、小田光雄は暗黙に労働価値説を維持している。しかし、柄谷行人が指摘するとおり、労働価値説は事後的にしか当てはまらない。小田光雄の「出版文化」論も事後的(祭りの後)でしかありえない。
 「エゴイストである」ことは、言い換えれば「事前的である」ことだ。その意味でのエゴイズムが無ければ、誰によっても、あらゆる社会進化の実現は不可能だろう。

出版業界の危機と社会構造

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本屋のほんね:2009-05-07 出版状況クロニクル